先週は、週を通じてドル/円が基本的に下落基調で推移した。それは、一つに政府・当局サイドからインフレを意識する発言が相次いで飛び出してきたことに因る。
その皮切りは、4日に植田日銀総裁が衆院予算委員会において「現在はデフレではなくインフレの状態にあるという認識に変わりはない」などと少々乱暴な発言をしたことにあった。加えて、翌5日には昨日は赤沢経済財政・再生相が「足元はインフレの状態という認識、植田総裁と齟齬(そご)ない」などと述べ、6日には田村日銀審議委員が長野県松本市での講演で、物価の上振れリスクが膨らんでいるとして「2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが必要」などと述べた。
なお、6日の衆院予算委員会で加藤財務相は「基本的には現状、物価が上がっているという意味ではインフレ」との認識を示しながらも、そのうえで「今後の可能性を含め、デフレに再び戻らないと言い得る状況にはなってない」述べた。この発言には、それなりに妥当性があると感じられる。
そもそも、加藤氏は今年の大発会で「(今年は)デフレ脱却を確かなものとする」と述べている。つまり、デフレからの脱却は「まだ完全ではない」というニュアンスを含んでいるわけで、これは石破首相の認識とも一致している。その意味からすると、植田日銀総裁の現状認識と石破首相のそれには“齟齬がある”ということになり、そこが植田氏の発言を市場がサプライズと受け止めた所以であると思われる。
気をつけておきたいのは、いずれ植田氏が再び4日の発言を覆してくる可能性があることである。その点については、国際通貨基金(IMF)が7日に開いた対日経済審査において「(日銀は)市場の期待を安定させるための明確なコミュニケーションを維持せよ」と注文をつけたことが印象深い。
とまれ、目下の市場で日銀による追加利上げの実施決定が想定より前倒しされるとの見方が強まっていること確かである。これまでは「7月」との見方が暗黙のコンセンサスになっていた模様だが、昨年12月の実質賃金が2カ月連続のプラスとなったことや、3月後半から4月初めには春季労使交渉の進捗状況が粗方見えてくることを考えると、場合により「5月」ということもあり得るとの声さえ一部からは出てきている。
さらに、トランプ関税の影響が相対的に少ない国として日本が世界の資金の投資先になっているという事実も見逃せない。既知のとおり、トランプ氏は先週7日の会見で「10日か11日に相互関税を公表する計画」と述べ、海外の各国が米国製品に課しているのと同水準の関税を、それぞれの国の製品にかける措置を講じる方針を示している。
日本の工業製品にも一部に関税は残っているが、仮に米国側から圧力を受ける可能性があるにしても、その程度は自ずと限られるものと見られる。
結果として、足元ではドル買いと円買いがともに強まっているものの、目先は円買いの方が勝っている。ドル/円は先週、一目均衡表の日足「雲」と200日移動平均線を順に下抜け、テクニカル的に弱気を印象付ける動きとなった。
足元は、一目均衡表の週足「雲」の下限と62週移動平均線が下支えする格好となっており、これらの重要な節目が位置する151円台前半の水準からさらに下方へ攻めていくことは少々躊躇われる。今週11日、半期に一度の議会証言に臨むパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言も確認したいし、12日に発表される1月の米消費者物価指数の結果も大いに気になる。
何より、トランプ米大統領が「早ければ本日(10日)にも公表する」としている「相互関税」に内容に市場の関心は向かいやすく、内容次第では一旦ドル買いの流れが強まる可能性もあると見ておかねばなるまい。週前半にドル/円が一旦強含みとなるなら、そこは戻り売りで臨みたいと個人的には考える。
(02/10 07:00)
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