前回更新分の本欄でも想定したように、いわゆる“石破ショック(高市ポジションの解消)”は早々に収束した。それは、よく言えば石破氏が「柔軟に軌道修正を行った」、悪く言えば「首相就任後に手のひらを返した」ことによるわけだが、少なくとも日本株市場には比較的フレンドリーな印象をもたらした模様である。
また、新首相就任の翌日に早くも日銀総裁が首相官邸を訪問するという異例の行動もやはりインパクト大であったと言える。植田総裁が石破氏との会談において「きわめて緩和的な状態でわが国経済をしっかり支えていく」、「見極める時間は十分ある」などとあらためて述べたことも、市場で円が再び売り戻される動きに大きく貢献した。
加えて、先週の週明け以降に発表された9月の米シカゴ購買部協会景気指数や8月の米求人件数、9月のADP雇用者数、9月のISM非製造業景気指数などが強めの結果を示したことも、あらためてドルを買い戻すムードの醸成に一役買っていた。
もちろん、極めつけは先週4日に発表された9月の米雇用統計の結果である。既知のとおり、9月は非農業部門雇用者数(NFP)の前月比の伸びが市場予想と前回(8月)の実績を大きく上回り、失業率は低下、平均時給も予想を上回る強めの結果となり、さすがに市場は強くドル買いで反応することとなった。
言うまでもなく、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利下げ期待が一段と後退し、米10年債利回りは3.96%台まで大きく上昇。先週30日に全米企業エコノミスト協会で「経済が予想通りに進展すれば、今年はさらに2回の利下げが行われ、利下げ幅は合計0.5%(ポイント)になる」としたパウエルFRB議長の講演内容を追認するような米指標の発表が続いており、そんななかで市場は今のところインフレ再燃への警戒よりも米国経済のソフトランディング期待の方に重きを置いている模様である。
米景気の底堅さを示す指標は先週末4日の米株市場にも強気の風をなびかせ、米金利上昇にも拘わらずIT・ハイテク株全般にも買いの手が向かっていた。結果、CME日経平均先物も大幅高となり、週明けの東京市場も強気の展開となる公算が大きい。むろん、日本株高は先週大きく値を戻したドル/円の下支え役にもなりやすい。
4日のドル/円は一時149円円近くまで戻りを試す場面があり、週足ロウソクは長い陽線を描いた。週の終値でも一目均衡表の週足「雲」を上抜ける格好となったが、目先はこの週足「雲」上限が上値抵抗として意識される可能性もあり、ひとまずは同水準をクリアに上抜けるかどうかを見定めたい。
仮に上抜けた場合には再び150円台が視野に入ってくるわけだが、そうなってくると「植田日銀総裁が言う『時間的猶予』は徐々に限られてくる」という点には要注意と言えよう。首相と日銀総裁がタッグを組んで円高の行き過ぎに待ったをかけたのはいいが、さすがに150円台になってくると国内物価への影響が再び懸念されることとなってしまう。まして、中東情勢の緊迫化を背景に原油価格も強含みとなってきている。
その意味で、ドル/円の戻り余地にも限りが見えてくる可能性はあると言える。
ただし、対ユーロにおけるドル強気の流れがより鮮明になってきていることもまた事実である。前回、ユーロ/ドルについて「1.12ドル台に到達したところからはどうにも上値が重い」と述べたが、実際に1.12ドル処を起点として先週のユーロ/ドルは大幅な下げを演じた。週末4日には節目の1.10ドル処をもあっさり下抜け、来週17日の欧州中央銀行(ECB)理事会で追加利下げが行われるとの見方も急速に強まっている。目先は、一目均衡表の日足「雲」下限(現在は1.093ドル処)が下支えになるかどうかに注目しておきたい。
(10/07 07:00)
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