先週末7日に発表された5月の米雇用統計の結果は、市場にとってかなりのサプライズとなった。先週は、4日発表の米求人件数(4月)や5日発表のADP全米雇用報告(5月)などが、いずれも予想を下回る弱い内容であっただけに意外感が強かった。
むろん、その前に発表された1-3月期の米GDP改定値が速報値から大きく下方修正されたことや、4月の米PCEデフレータが米インフレ鈍化を示す結果であったこともまだ記憶に新しい。少し振り返ると、米GDP改定値の発表前に一時157.71円処まで上昇していたドル/円が、米求人件数の発表後に一時154円台半ばの水準まで大きく下押す動きとなっていたことも事実である。
とにもかくにも、5月の米非農業部門雇用者数(NFP)と平均時給の伸びが加速したことに対して、市場は「やや短絡的にすぎるのでは」と思われるほど素直にドル買いで反応した。当然、米10年債利回りも同時に急上昇することとなったわけだが、これらの市場の反応は真に「米国の今」を正しく映すものと言えるだろうか。
腑に落ちない点は幾つかある。まず、5月の米国では「労働参加率」が低下したのにも拘らず、一方で「失業率」は上昇した。これは求職者市場に復帰した人々がなかなか職に就けていないことを示す。実際、米求人件数は足元で大きく減少している。
また、失業率は家計調査をもとにしていることで知られるが、その家計調査における雇用者数は5月に40万人余り減少したことが明らかにされている。他方、NFPは事業所調査をもとにしているわけであるが、その点についてある米系エコノミストは「事業所調査は測定上の問題がある」とし、米連邦準備制度理事会(FRB)が単月のNFPの伸びに固執して政策判断を行うならば、それは「いずれのパウエル議長が労働市場の予想外の弱さに直面するリスクを高める」と述べている。
そうした部分も考慮されたためであろうか、4日のドル/円の戻りに一頃のような力強さは感じられなかった。買いが一巡すると「一段の上値には慎重」といったムードも漂っていたのである。むろん、それは米連邦公開市場委員会(FOMC)と日銀金融政策決定会合の日程を間近に控えているからということもあろう。
ことに、今回の日銀会合に対しては市場も一定の警戒を怠りなくしている。「追加利上げはもう少し先になるだろうが、国債の買い入れ減額は十分にあり得る」と見る向きも少なくはない。そのことが、4日のドル/円とユーロ/ドルの値動きの差に表れていたところもあろう。米雇用統計発表後のユーロ/ドルはNY時間の終わりまでほとんど下げが止まらない状況であった。ちなみに、7日に発表されたユーロ圏の1-3月期の実質GDPは年率換算で1.3%増と3四半期ぶりのプラス成長に復帰していた。
既知のとおり、最近は米国の主要小売業の不振ぶりが示された様々なニュースを連日のごとく目にする。5月末までに出揃った2-4月期決算は減収・減益が目立ち、株式市場では米消費関連株が全体に低調な株価推移となっている。前回更新分で触れた米国内における「ハンバーガーチェーンの安売り競争激化」という話題も、決して米景気の先行きを楽観視させるものではない。こうした皮膚感覚に訴える事情も軽視してはなるまい。
総じて、先週末のユーロ/ドルの下げは少々行き過ぎであったと個人的には思えてならない。足元は1.08ドル処の節目まで下押しており、ちょうど89日移動平均線(89日線)を試す格好となった。さらに、89日線の少し下方には一目均衡表の日足「雲」上限(現在は1.0790ドル処)が控えている。そろそろ一旦下げ止まってもおかしくないと見られ、ここで慎重に打診買いを入れてみるというのも一考であろう。なお、ドル/円については、やはり日銀の決定を待ちたい。
(06/10 07:00)
FX・CFD・証券取引・外国為替のことならマネーパートナーズ -外為を誠実に-