「下落相場に強気材料なし」という言葉こそが、先週の国際金融相場の状況を端的に表す。多少なりとも「弱め」と捉えられるデータについては、その背景や要因などに関わらず、より弱気の材料と意識される一方、全体に「強め」と捉えられるデータであった場合でも、何やかやと難癖がついた挙げ句に弱気の材料へと祭り上げられてしまう。
ことに、米・日の株式市場では蘭ASMLの決算と台湾TSMCの決算が弱気材料と判断され、IT・ハイテク関連銘柄を中心に大きく値を下げることとなった。そのことが市場全体をリスクオフのムードで包み込もうとするなか、追い打ちをかけるように中東情勢の一層の緊迫化や一部で持ち上がってきた米利上げの可能性などが、ますます先行きに対する悲観・警戒ムードを色濃くすることに作用している。
ここで重要なのは、足元のムードになびきすぎることなく、より冷静に詳細な「事実」を把握、分析して正しく先行きを予測すること。悲観のなかで生じる誤解や見過ごされる事実なども少なからずある。
まず、ASMLが1-3月期に前四半期比で売上高と受注総額を減らしたことは、必ずしも半導体市況全体の先行きを悲観させるものではない。同社製のEUV(極端紫外線)露光装置は主に台湾TSMCや韓国サムスン電子などに納品され、エヌビディアをはじめとする米国の半導体メーカーなどからの旺盛な最先端品需要に応えている。
現状、TSMCが抱え込んでいる受注は生産能力の限界を超える状況となっており、同社が必要とするEUV向けの各種部材、素材を供給する日本の関連企業もその対応に追われている。よって、当面の増収増益見通しに陰りはなく、いずれ各社の株価は自ずと下げ止まるだろう。なお、TSMCの1-3月期決算はすこぶる好調な内容であったが、同社が発表した業界全体の2024年見通しについて、メモリーを除く半導体生産の伸びが従来の「10%以上」から「10%」に“微修正”されたことで、それを嫌気するムードが市場で強まったという。これぞ、まさに「下落相場に強気材料なし」である。
もちろん、足元で米10年債利回りが再び4.6%台に乗せてきていることは軽視できない。既知の通り、その背景には一つに市場が見通す米国の利下げ開始時期が後ずれしてきていることがある。なかには、NY連銀のウィリアムズ総裁のように「低い」としながらも「利上げ実施の可能性」に言及する向きも現れる始末で、今後はこうした発言自体が市場の長期インフレ期待を増幅させるリスクにも警戒せねばなるまい。
ただ、米長期金利の上昇によって米株価の調整が続けば、その資産効果として発現してきた米個人消費の伸びもほどなく鈍化しはじめよう。一頃見られていた「ゴールディロックス状態」が終焉の時を迎えれば、同時に米国経済のソフトランディング・シナリオにも修正が必要となる可能性が高い。いずれドル高一辺倒の状況にも変化が生じるだろう。
片や、先週18日に日銀の植田総裁は円安進行に伴う物価高について「無視できない大きさの影響になれば、金融政策の変更もあり得る」と述べている。今のところ、ドル/円の155円手前ではリバースノックアウトオプションに絡む防戦売りが一段の円安に歯止めをかけているが、仮に155円処を超えてくれば本邦当局もたまらず“行動”を開始するものと見られる。よって、ここからのドル/円の上値は自ずと限られると見る。
むろん、中東情勢の行方も気にはなるが、今のところ「イスラエルとイランの応酬は限定的」と見られており、正直、その暴発リスクまでは織り込みようがない。ただ、先週末19日のドル/円が大きく「下に往って来い」の展開となったことを考えても、やはり当面はドル/円と向き合うことに慎重であらねばなるまい。一方で、ユーロ/ドルについては前回更新分で「1.07ドル処からの戻り売り方針」と述べたが、今週も基本姿勢は変えない算段で臨みたいと考える。
(04/22 07:00)
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